支配者




雨の外で降りしきる雨音が止まない
物音一つしない空間、一人残されて
伸ばした手は空を掴んでいた



「………」
無言のまま気だるげに壁に寄り掛かりながら、ベッドの上で上半身を起こす。
視線の先、くすんだ色になってしまった元は白いコンクリートにぽっかり開いた四角い窓の外には
暗く淀んだ空が仕切られている。
イグラも開催しているのか分からない程、不気味な静寂。
3日も止まない雨の降りしきる音だけがその静けさを破っていた。
部屋の主はアキラを置いたまま、もう何日も帰ってこない。
「…雨、止まないな」
独りでに口をついて出た言葉が雨音の渦に吸い込まれて消えていく。
雨の所為で気温が下がったのか、冷えた躰を両手で慰めるように抱き締める。
そのまま二の腕から肘へと手を滑らせていくアキラの手がゆっくりと止まった。
腕の内側に出来たての、まだ鮮やかでさえある紅の色。
所有印という名の鬱血だ。
それに視線をやりながらアキラは何も考えずに無心のまま指先をその上を往復させた。
「…シキ、か」
自分の"所有者"だと言っていた。
艶やかな黒髪とそれに同調する全身黒革の出で立ち。
唯一異なる紅い瞳は拒絶、反抗を一瞬忘れさせるかのようで。

悪魔


      そんな言葉が似合いの男。
気まぐれに現れて、そして人を殺めて消えていく。
その先に何があるのか、まったく読めない。
      そんな男なのだ。
「鍵、かかってないんだよな」
視線がドアへと向かう。
アキラがココに連れて来られてからずっと。
シキは鍵を開けたまま留守にしていた。
逃げ出さないと高をくくっているからか
それとも。
「俺を逃がそうとしている、のか?」
逃げたらそれで構わない。
おそらく、きっと。
それだけの存在なのだろう。
彼に比べれば自分は、弱い人間だから。
震える足で床に降り立った。
腰のだるさなんて既に消え失せ、かろうじて走れるだけの力も残っている。


逃ゲルナラ 今ダ……


脳の奥で誰かの声がアキラにそう囁いた。
恐る恐る一歩を踏み出す。
続いて、二歩、三歩。
ただの木製の癖にやけに重たく見えるドアが近づくにつれ徐々にその重力を失っていくようにさえ思えた。
ドアノブに手をかけようとした、その時       
軋んだ音を立てながら目の前のドアがゆっくりと開いていく。
「………ッ!?」
その先にいる人間の正体が分かると、アキラは一瞬息を飲み後じさりした。
いや、最初からドアが開いた時点で気付いていた。
あぁ。帰ってきたのだと。
「…そこで何をしている」
早く、来い
抑揚の無い声がそれだけ空気に晒されるのを耳にすると、アキラは髪を掴まれた。
ベッドに引きずられるように戻される。
乱暴な所作でシーツの海に叩きつけられ、
衣服が引き剥がされる。
「……逃げなかったんだな」
「…え?………ッ痛!」
上着とTシャツを脱がされたところで、シキの僅かに嬉しそうな声がボソリと聞こえてきた。
アキラが聞き返そうとすると腹部まで上体をかがませたシキの濡れた唇が、銀のピアスを咥えグッと引っ張る。
その痛みに思わずアキラが眉を顰めるとシキは表情を変えないままチラリと見上げ、
更に見せ付けるようにそこへ舌を這わせる。
ピンク色の舌と、真っ赤な瞳が。
アキラの視界いっぱいに広がって思考回路をゆっくりと鈍らせていく。
慣らされた躰は既にシキの愛撫に敏感に反応していた。
先程まで考えていた事をすっかり忘れてしまった様子のアキラの眼差しに情欲が芽生えだす。
両手が、シキの背中を抱き締めた。
そして、今日もまた退廃した空気の中に堕ちていくのだ。


支配者の手に委ねられながら。

FIN





ハイ。初めてのシキアキでございます。 加えて本当に久々のSSです(涙)文章の書き方を忘れてしまったとです!えらいこっちゃ。えらいこっちゃ。 四苦八苦しながらなんとか形にはなるように尽力したわけですが。聊か違和感が残っている次第です(苦笑) ですが、そんなに嫌いでもないゲームの一こま。シナリオでのこの後のHが大好きです。あ!これはシナリオとまったく関係ないんですけどね。 だって。アキラこんなに弱い訳ないですから。精神的に。 もっとしなやかな猫にゃんなんですよ〜〜〜!!(笑)

◆γуμ‐уд◇

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