影が怖い訳じゃない 「やっぱり、まだ蕾すら見えないな」 森の中、一本だけ大きく枝を伸ばす大木を見上げてコノエが残念そうに呟いた。 この木はコノエとライの密かにお気に入りの花を毎年春になると咲かせてくれる。 しかし、未だ暗冬すら始まっていないこの季節では葉一つつけていない淋しい状態でしかない。 「繰春の頃はまた、花が咲いているはずだ」 そんなコノエの後ろに立ちながら、ライは静かにそう答えた。 薄青の隻眼が見下ろした先、小さな肩が小さく震えている。 寒さの、せいだけじゃない。 これはきっと。 「………っ、ライ?」 だから、言葉よりも先に行動に出てしまったのだと思う。 後ろから抱き締めながらライは頭の片隅でそんな事を考えていた。 「俺の前では無理をしなくて良い」 髪に頬を埋めて耳元で囁けばコノエの大きな耳がフルリと震えた。 「バレバレだ、馬鹿猫」 そんな耳に更に言葉を付け加えれば、恥ずかしそうに今度はペタンと耳が伏せった。 葉一つつけていない桜の木の前で、二匹は暫く互いの尻尾を絡ませたまま抱き合っていた。 依然、見上げるコノエの視線の先には薄暗く曇った空と寒々しい枝のみが広がっている。 「繰春の頃にはまた、此処に一緒に来たい」 「好きにすれば良い」 呟くような、願うようなコノエの言葉にライは素っ気なく突き放すように答えた。 しかし、そんなライの顔は言葉とは裏腹に穏やかで。 桜の枝からライの顔に視線を移したコノエは、その表情にふわりと笑みを浮かべ頷いた。
枝の先に付いたまだ膨らんでもいない蕾が FIN |
WEBでは初のラメントです。王道でライコノ行ってみました。コノエが震えているのは、リークスと融合後、結局コノエ自身はその過去を背負うような形となっているからです。
わりと挽歌と似ているこの設定が好き……です。 この続きでコノエさん死後の話もちょぴっと書きたいなとかそういう事を考え中。。。。 ◆γуμ‐уд◇ |